デキる人の交渉マインド
多くの人は交渉を、奪い合い、勝ち負けと捉えており、交渉相手は敵であると思っています。多少は妥協したとしても、自分に少しでも有利な条件で妥結し勝利することを目指してしまいます。
しかし、そのやり方で勝っても、相手の敵意を生むことにもなり、回りまわっていつか自分の負けとして返ってくることもあります。相手から奪うことばかり考えていると、そのときは成功しても、繁栄は長く続きません。
デキる人は、交渉は駆け引きや奪い合いではなく、交渉相手は、問題の相互解決者であ
り、同じ目的を持った同志というふうに考えます。
アメリカ人の交渉術
契約社会であるアメリカ人はハードな交渉をする印象があります(映画等の影響もあります)が、実はそれは誤解で、「原則立脚型」の交渉術が広く用いられています。
「原則立脚型」交渉術の基本原則
第1の原則 人と問題を分離する
「人(相手)」を見ることから始めず、「解決したい問題」を明確にする。両者を分離して考えることで、お互いが敵味方に分かれるのではなく、一緒に問題を攻めるという状態にする。
第2の原則 立場ではなく利害に焦点を合わせる
上下関係などの立場を気にしすぎると、問題の焦点がぼやけるため、まずはお互いが何を望んでいるのかという点をクリアにする。
第3の原則 行動について決定する前に多くの可能性を考え出す
正しい解決策は1つしかないと思うのではなく、双方に有利な選択肢を考え出す。
第4の原則 結果はあくまでも客観的基準によるべきことを強調する
どちらか一方が選び出した基準で決定されるのでは不公正さが残るので、あくまでも市
場、専門家の意見、慣習、法律といった公平な基準によって結論を出す。
原則立脚型交渉の例
ある姉妹が一個のオレンジをめぐって喧嘩しています。
「姉のほうが多くをもらう権利がある」
「いやいや、お姉さんだからといってそんな権利はない」
この対立を交渉するには
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姉の方が年上なので、妹は我慢する
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いつも姉は妹に迷惑をかけているので、妹に譲る
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じゃんけんで勝った方が貰う
などと考えがちです。しかし、原則立脚型の原則に従って考えてみましょう。
■人と問題を分離する=姉と妹の人間関係は横に避けて考え
■立場ではなく=姉の方が年上などの考えは除く
■利害に焦点を合わせる=双方、何を望んでいるのか明確にする
そうすると、このようなことがわかりました。
・姉はオレンジの中身が欲しかった
・妹はケーキを作るために皮が欲しかった
中身は姉に、皮は妹に渡すことで、喧嘩は難なく解決したのです。
こういうことは普通の交渉でもよくあることなのです。このケースでは当事者が異なるものを望んでいたことが合意成立の糸口になりました。一般に両当事者間の相違が問題を発生させるものと思われていますが、実際は相違が解決へ導くこともあるのです。
誰もが満足する解決策を考える
しかし、お互いの利害がどうしても対立してしまうことはあります。この時は、いかに納得性の高いやり方で着地させるかが大切になります。
2人の子どもが1つのケーキを分けるのに古くから使われている方法があります。1人
が切って、もう1人が選ぶという方法です。この方法ならば、どちらも不平を言うことが
できません。この単純な方法が応用された事例があります。
国際連合海洋法会議でのことです。協定案の条項では、採掘区の半分は民間企業が、残りの半分は国連所属予定の採掘公団が採掘することになっていました。深海底で採掘場所をどのように割り当てるかという交渉になると、豊かな国の企業は良い採掘区を選ぶ技術と専門知識を持っているので、採掘公団は損な取引をするのではないかと貧しい国々は心配しました。そこで編み出された解決策は、海底を採掘しようとする企業が、採掘公団に対して採掘区を2か所申請させることだったのです。採掘公団はいずれか一方を直営の採掘区に選び、申請企業には他方の使用を認めます。企業はどちらの鉱区を使えることになるかわからないので、2か所ともできるだけ有望な地点を公団に申請せざるを得なくなりました。この単純な手続きによって、すべての関係者の利益のために企業の優れた専門技術を活用することができたのです。
どちらが勝つとか負けるとかではありません。双方が満足する解決策を考えることが大事なのです。
「三方よし」の精神
これらの交渉術は、日本の「三方よし」の精神に通ずるものがあります。
「三方よし」とは、近江商人(中世から近代にかけて活動した近江国(現在の滋賀県)出身の商人。大坂商人、伊勢商人と並ぶ日本三大商人の一つ)の経営理念を表現した言葉です。
三方とは、「売り手・買い手・世間」を指します。自らの利益のみを追求することをよしとせず、自分も顧客も社会も皆が幸せになることを目指す「三方よし」の精神は、伊藤忠をはじめ、多くの企業の経営理念の根幹となっています。